ベタンクール救出とあの夏の沸き立つ自由

執筆者:徳岡孝夫2008年9月号

 今年の七月十四日、フランスの革命記念日(日本でいうパリ祭)に、元人質イングリッド・ベタンクールは、エリゼ宮でサルコジ大統領からレジオン・ドヌール勲章を授けられた。それより少し前の新聞には、前大統領ジャック・シラクが彼女の手をとって接吻する写真が出た。コロンビア革命軍(FARC)に誘拐され、密林の村に監禁されて六年の彼女が、解放されて得た自由と栄誉だった。 ベタンクール(四六)はフランスとコロンビアの二重国籍を持っている。父はパリ駐在のコロンビア外交官。彼女は教育をすべてフランス語で受けた。母がミス・コロンビアだったので、娘である彼女には中年に達してなお美貌の名残りがある。 コロンビア政界の腐敗と果敢に戦った彼女は、二〇〇二年二月に大統領選に立候補し、遊説中にFARCの支配地域に踏み込んでしまった。 最初の五年間、生存しているか否か、どこに囚われているか、確かな情報がなかった。今年も七月になって政府軍が場所を突き止め、フランス軍の協力を得たらしい特殊部隊が他の十数人の人質と一緒にベタンクールを奪還した。 もし日本の自衛隊の空挺部隊が、同じような手法で北朝鮮の国内から拉致被害者を取り戻したら、どうだろう。某大新聞などは「憲法違反の海外派兵だ。許せない!」と、怒り狂うのではないか。ともかく、フランス人に馴染みのある女性が救出され、元通りの姿で帰ってきた。フランスは熱狂し、ベタンクールは革命記念日にふさわしい「自由の象徴」になった。

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