フィリピン・マニラ中心部の「黄金モスク」を訪れた。モスク訪問時の応対や、モスクのおかれた環境や雰囲気で、その国でイスラーム教徒がおかれた状況のおおよそを感じ取ることができる。 ムスリムが多数派の国では、モスクにわざわざ外国人が訪ねてくるというのは、イスラーム教徒にとって自らの信仰の優越性を感じ、誇りに思う場面である。余裕を持って応対し、できるだけ良いところを見せたいと気を配る。善意から改宗の誘いも次々とかけてみる。モスク内部は各国の都市のもっとも清潔な場所である。 しかしイスラーム教徒が少数派で、苦しい立場に置かれている国では、対応は猜疑心に満ち、門を閉ざそうとする。 マニラのモスクは各国首都の筆頭モスクとして、最も殺伐としたモスクの部類に入るだろう。建築は壮麗だが、構内はゴミが散乱する。モスクの位置する街区の治安もよくない。カソリックが支配的で優越的な価値観として厳然と存在するフィリピンで、包囲され監視されているという意識の下に被害者意識と警戒心を募らせる様子が伝わってくる。 イマーム(モスクの指導者)だけは若干のアラビア語を話すが、他にはほとんど教学に興味を示す者はいない。正式な喜捨箱があるにもかかわらず、それとは別に寄付を寄越せとしつこくせびる者がいる。もちろん自分の懐に入れてしまうに違いないのだが、どうやら彼だけはそのモスクで金をせびるなんらかの利権を持つらしい。

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