台湾すらも包含できる便利なキーワード、それが“中華”だ。「海外サポーター」を巧妙に使う中国の作戦は、まずは図に当たった。[台北発]北京五輪は「中国の五輪」であると同時に「中華の五輪」だったのではないか。五輪最終日、「鳥の巣」で行なわれた閉会式セレモニーをテレビで見ながらそう感じた。 八万人の拍手を浴びながらステージで「北京、北京、我愛北京」を歌った六人の歌手。中国出身は孫楠、譚晶、韓雪の三人だけだった。残りは台湾の王力宏、香港のケリー・チャン(陳慧琳)、韓国のRAIN。そして閉会式の締めくくりでも、香港のジャッキー・チェン、アンディ・ラウ(劉徳華)、シンガポールのステファニー・スン(孫燕姿)ら中華世界のスターが勢ぞろいし、五輪のフィナーレを告げた。 中国の発展ぶりを世界に示す五輪で、なぜ中国出身以外の芸能人を起用したのか。そこには北京五輪を通じ、「中華」という概念のもと、新しいアジア秩序の形成を目指す中国の野心が透けて見える。台湾、香港、シンガポール、韓国など“構成員”からの動員とは対照的に日本の歌手が呼ばれなかったことは興味深い。 たかが歌手と軽く見てはならない。かつて中国ではテレサ・テン(トウ麗君)とトウ小平の影響力を同列に称して「昼の世界を小平が制し、夜の世界を麗君が制した」と評された。中国にとって歌謡や演劇は革命以来の非常に重要な宣伝工作の一つであり、はやりの言葉でいえば「ソフトパワー」なのである。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。