ルーマニアの農地が買い漁られている

執筆者:藤好陽太郎2008年10月号

世界的な食糧の奪い合いは農地そのものの奪い合いへ。いくら肥沃とはいえ、東欧ルーマニアの土地までが――。[ロンドン発]穀物価格の高騰を背景に、世界中のマネーが農地を求めて狂奔している。 東欧ルーマニアの首都ブカレストから北東へ九十キロのココラ村。小麦畑が一面に広がり、春には菜の花が鮮やかな黄色に色づく。村の中心にある公証役場前でコンスタンティン氏(七一)は声を震わせた。「今、一ヘクタールの農地売却にサインしてきた」。トウモロコシや小麦を栽培してきたが、原油高騰で燃料や肥料の価格はうなぎ登り。所有する三ヘクタールの農地では大規模経営による効率化も望めない。「穀物の値段が高くなっているのに赤字だ。零細農家は土地を手放さざるを得ず、将来はない」。ルーマニアでは年二万人の離農者が出稼ぎで糊口をしのぐため海外に流出している。 では、誰が農地を買っているのか。ココラ村では、ブカレストに本社のあるグローバルコム社が出張所を設け、農地の買い付けを行なっている。コンスタンティン氏が売った土地を含めた十四ヘクタールは、デンマークの大手穀物会社の委託を受けて、グローバルコム社が地上げをしている真っ最中だ。 穀物会社は土地を購入したうえで、十を超す農産物の貯蔵庫(サイロ)を建設する計画という。グローバルコム社のウーベル社長は「連中は、収穫した小麦やジャガイモをサイロに貯め込み、旬からずらして高く売る。うまみの大きい商売だ」と声を潜めた。グローバルコム社にも、一ヘクタール=千六百ユーロ(約二十四万円)の土地を二千ユーロで売却した差額が転がり込む。

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