金融危機の「未成熟大国」への影響を注視せよ

執筆者:田中明彦2008年11月号

 現在の金融危機で何を一番恐れるべきであろうか。恐れることは多々ある。さらなる金融機関の破綻は恐ろしい。取り付け騒ぎも恐ろしい。株や為替、その他商品市場の乱高下も不安をかき立てる。さらに、実体経済が不況に転げ落ちるのも防がなければならない。 このような経済におけるさらなる事態の悪化を恐れるのは当然である。しかし、一九二九年の大恐慌以後の歴史を振り返ってみれば、最終的に真に恐るべきは、国際政治への影響である。国際政治の枠組みが崩壊し、平和と安定の基礎が崩れたとき、二十世紀は人と人が殺し合う世界を生み出してしまった。 もちろん、国際政治が破綻するのを防ぐためには、そもそも金融危機の悪化を防ぐ必要があるのであって、実体経済が不況に沈み込むのを防ぐことが必要である。したがって、国際政治への影響を懸念したとしても、出てくる処方箋は、経済的な解決策を着実に探るということになる訳であり、考えなければならないことが大きく変わる訳ではない。 しかし、この危機への対処にあたって、心配しなければならないのは、かつての大恐慌のときに各国が陥った「近隣窮乏化政策の罠」ともいうべき傾向である。かつて、世界経済の不況から自らを守るためにいくつかの国が行なったブロック経済の形成は、自らのブロックを作り出せない勢力に、多大の不満を生み出し、国際政治を「持てる者」と「持たざる者」の対決という図式に追い込んだ。

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