問題意識に欠ける役所の手にかかれば、事態は悪化の一途。若年世代にとって出産・育児への入り口は狭まるばかりだ。「十五から五十歳の女性の数は決まっている。産む機械、装置の数は決まっているから、あとは一人頭で頑張ってもらうしかない」 この有名な「産む機械」発言は、二〇〇七年一月、島根県松江市のとある会合で柳沢伯夫厚生労働相(当時)の口から飛び出した。柳沢氏は、わが国の社会保障にとって少子化対策がいかに重要かを訴えたかったらしいが、生身の女性を機械にたとえた無神経さが強い批判を浴び、野党が罷免を求める大騒動に発展した。 柳沢氏の言葉は、女性一人が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率を上昇させたいという厚生労働省の政策的要望を端的に表現したものだ。年金、医療、介護などの社会保障制度は、長寿化による高齢者の急増で給付が想定外の伸びを続けている。少子化が進めば、財源を負担する現役世代が減って給付を支え切れず、システム全体の破綻は避けられない。 ただ、少子化対策の柱である子育て支援は、厚生労働省の仕事のはず。自分がトップを務める役所の無能を棚に上げ、「一人頭で頑張ってもらうしかない」などと、まるで世の女性たちが母となるべき努力を怠っているかのような言いぶりは、無責任も甚だしい。

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