「農地流動化」が招く中国そのものの液状化

執筆者:鈴木孝昌2008年12月号

中国共産党は遂に「農地私有化」へ踏み出した。だが、それは、一党独裁体制の「終わりの始まり」にもなりかねない。[北京発]「社会主義体制の転覆だ!」「いったいだれがこのような売国・国政策を進めているのか」――。中国で伝統的な社会主義を守ろうという左派勢力のインターネットサイト「烏有之郷(ユートピア)」には、胡錦濤政権を正面から批判する過激な発言が続々と掲載されている。 中国共産党は十月に開いた第十七期中央委員会第三回全体会議(三中全会)で、農村改革における「若干の重大な問題に関する決定」を採択。憲法で「集団所有」と定めている農地について、農民個人の利用権を大幅に拡大し、転売や譲渡を含む農地の流通をも認めた。農地は事実上、農民の「財産」となり、改革派や多くの農民たちが求めてきた「農地の私有化」に一歩を踏み出したとの見方も出ている。 マルクス、エンゲルスは共産党宣言で、「共産主義者の理論は『私的所有の廃止』という一語に総括される」と書いた。中国の憲法は依然としてマルクス主義を指導思想と仰ぎ、生産手段(工場や農地)の公有制と集団所有制を「経済制度の基礎」と位置づけている。だが、すでに国有企業が民営化され、私有財産も憲法で保障された。農地まで私有化となれば共産党はまた大きく社会主義の原則を踏み外すことになる。

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