大損失で追い詰められた「赤い資本家」の息子

執筆者:八ツ井琢磨2008年12月号

 十月二十日、香港経済界に衝撃が走った。香港で上場する中国政府系コングロマリット(複合企業)の中信泰富(CITICパシフィック)が、外貨取引失敗で約百五十五億香港ドル(約二千億円)の損失が出る可能性があると公表したためだ。この発表を受け、同社株は翌日五五%も下落。 中信泰富が行なったのはオーストラリアドルの対米ドル相場などに連動する取引で、一豪ドル=〇・八七米ドル水準を下回れば損失が出る仕組み。今年半ばまでのように豪ドル高が続いていれば利益を上げられるはずだったが、世界的な金融市場混乱の影響で七月をピークに豪ドルが急落。時価ベースで巨額の損失を抱え込むことになった。 この件が波紋を呼んでいるのは、損失規模もさることながら、中信泰富がただの企業ではないからだ。親会社は中国国務院(中央政府)直属の金融大手中信集団(CITIC)。中信泰富の実権を握る会長の栄智健氏(六六)は、中信集団の創設者で「赤い資本家」と呼ばれた栄毅仁元国家副主席(故人)の息子であり、中国指導部と太いパイプを持つ。中国有数の資産家でもある。 また、栄会長の右腕である范鴻齢マネージングディレクターは、香港行政長官の諮問機関「行政会議」メンバーや香港証券取引所役員、公的退職積立金の管理局主席などを務め「公職王」と呼ばれる香港政財界の大物。

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