世界金融危機を買うある零細投資家

執筆者:徳岡孝夫2008年12月号

「株」の市場が全世界で大混乱した。上げも凄いが、下げはもっと凄かった。本誌が読者の手に届く頃にも、風波はまだ鎮まっていないだろう。 一九三〇年代の大恐慌の頃、株価はテレタイプで来た。機械がガチャガチャと鳴ってチッカーテープを吐き出す音が、それを見る人間の恐怖の何分の一かを分担してくれた。いまでは電子の数字が、音もなくパネル上に並ぶ。その怖さ、ひとしおだろう。刺客は無言で刺す。アイスランドは、運用を間違ったばっかりに静かに沈没した。 いまは、それに加えて世界中が繋がっている。一犬が吠えるかと見てとると、万犬が先回りして吠える。破局を招きやすい条件が整っている。私も暗い顔で証券欄を見ていた。 すると「日経」(十月十八日夕刊)の片隅に短い記事があった。ウォレン・バフェットという私には未知な米国の投資家が、NYタイムズに寄稿して「私は米国株を買っている」と言ったという。聞き捨てならない話である。 聞けばバフェットは有名な投資家で、資産がビル・ゲイツに次ぐ大金持ちだとの話。彼が米国株を買う理由は「他の人が欲張っているときには恐れを抱き、他の人が恐怖にさいなまれているときに強欲になる」からだと、本人が言っている。

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