佐久の「うまいコメ」が実証する減反無用

執筆者:藤間准一2009年1月号

農家のためにも消費者のためにもならない減反政策に妄執してきたのは誰か。長野県のコメどころに事態正常化の動きを見る。「もうダメかもしれん」 関東地方で三十年以上コメを作り続けてきた専業農家の男性は、重苦しい沈黙の末にポツリと言った。十二月九日のことである。 この日、農林水産省は二〇〇八年産米の全国の収穫量を示す作況指数を発表した。数値は「豊作」に当たる一〇二。豊作になったのは七年ぶりだった。食糧危機が叫ばれる時代に歓迎すべきことにも思えるが、この男性はとてもそのような心境にはなれなかった。豊作は米価の下落を意味するからだ。 〇七年は「平年並み」だった。しかも穀物価格の高騰という“追い風”が吹いたにもかかわらず、全国米穀取引・価格形成センター(コメ価格センター)が発表する平均価格は一俵(六十キロ)あたり一万五千七十五円(包装代、消費税等を含む)と、前年を六百円以上も下回った。「二〇〇〇年以降は、赤字の年の方が多くなった」 この男性は、これまで政府が進める減反政策に忠実に従ってきた。政府は県に、県は市町村に「目標」を下達し、現場では各地の農協の職員が農家を戸別訪問して協力を取り付けてきた。「農協の人はだいたい春先からお願いに回って来る。もうこれ以上減らせないと言うと、土下座でもしそうな勢いで『生産調整(減反)は農家を守る制度。少しでも引き受けてもらえないか』とくる。でも値段が下がっているから簡単にウンとは言えない。そうすると『コメは余っているから減反しないと値段がもっと下がる』。それじゃ言うけど、何でも国の言うとおりにしながら一生懸命コメを作ってどうなった? 値段が下がって赤字だよ。生産調整は農家の調整なんだ!」

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