欧米の議論をすりかえる形で“便乗”した時価会計の凍結。その実態は損失隠しにほかならない。繰り返される「愚」――。 二〇〇八年十月十五日、金融庁内に大手都市銀行や地方銀行など二十三の金融機関のトップが集まった。全国各地で問題化していた中小企業への貸し渋りに関して、中川昭一金融担当大臣ら金融庁幹部と意見交換する場が設けられたのだ。その冒頭、挨拶に立った全国地方銀行協会会長の小川是横浜銀行頭取がひとつの要望をした。「時価会計の適用停止を考えてほしい」――。九月のリーマン・ブラザーズ・ショック以降、世界中で株価が大幅に下落。会議のあった前の週には日経平均株価が八千二百七十六円まで下げていた。株価が下落すれば銀行の保有株に含み損が発生し、自己資本が大幅に目減りしかねない。第二地方銀行協会会長の横内龍三・北洋銀行頭取も、「緊急事態では、一時的に会計ルールの工夫で自己資本比率にプラスになるような施策を検討してほしい」と追随した。変動利付国債をはずしたくて 確かに、欧米でも時価会計に対する見直し論議は出ていた。十月上旬にワシントンで開かれたG7(七カ国財務相・中央銀行総裁会議)でもその扱いが議論になったという。だがそれはあくまで、サブプライムローン問題以降、市場で取引が無くなったCDO(債務担保証券)などの証券化商品の価格をどう付けるか、という話が中心だ。

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