企業会計の「大原則」を棄てた金融庁の大罪

執筆者:大神田貴文2009年1月号

そんなに簡単に棄てられるのか。大議論の末に導入した「時価会計」をご都合主義でポイ。また戻さなければならなくなったらどうする?「無理が通れば道理が引っ込む」とはよく言ったものだ。金融危機を前にした時価会計凍結に際して、横車を押したのは金融庁や銀行業界であり、押し切られたのは公認会計士や投資家だった。 十月下旬、日本政府は米リーマン・ブラザーズ倒産後の市場の混乱を見て、緊急市場安定化策に時価会計の一部凍結を盛り込んだ。結論から言えば、この超法規的措置により、先に公表した九月中間決算で三井住友フィナンシャルグループが千五百三十八億円、三菱UFJフィナンシャル・グループが千二百二十二億円の損失計上を免れた。 日本企業に限らず、金融商品は時価で評価するのが大原則。企業経営者による恣意的な資産評価を封じる手段が市場価格の採用だ。ところが、サブプライム禍に翻弄された欧米で、住宅ローン証券を中心に金融商品が暴落。金融機関の巨額損失に慌てた欧米当局が市場で取引がなくなったCDO(債務担保証券)などの証券化商品の時価評価停止を決め、日本は「右へ倣え」するふりをしてそれを“拡大解釈”した。 日本における時価会計導入には膨大な時間と労力が費やされている。「時価とは何か」の定義だけで、神学論争さながらの検討を一年以上も重ねていたものだ。

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