来日十七年、東京でレストランを開くスペイン人シェフのジョセップ・バラオナ・ビニェスさん(四二)に、本国の王室儀典長フランシスコ・ノンベラ氏から国際電話が入ったのは二〇〇八年の十月半ば。 「十一月にフアン・カルロス国王夫妻が国賓として訪日されるが、天皇皇后両陛下をお招きして開く答礼晩餐会の料理の指揮をとってもらえないか」  バラオナさんは「料理人として光栄この上ないことです」と、二つ返事で引き受けた。  国王夫妻は十一月九日に来日。十日に宮中晩餐会がもたれ、答礼晩餐会は翌十一日に明治記念館で開かれることになっていた。準備期間はわずか三週間。バラオナさんとスペイン王室の儀典部門との間でメールのやり取りが続いた。  メニューは前菜、魚、肉、デザートの四品と指示があった。生まれ故郷カタルーニャの料理をモダンにアレンジするのが得意なバラオナさんは、次のようなメニューを提案した。  スペインのタパス  ひらめと帆立のロメスコクリームソース  和牛のロースト、ぶどうのソース、根菜添え  スペイン風デザート  タパスはイベリコハムやスパニッシュ・オムレツなど、一口サイズを七種類。肉料理はイベリコ豚にすることも考えたが、王室が「日本に敬意を表する意味で和牛にしよう」と決めた。付け合わせの根菜は、ビーツ、ムラサキイモ、赤・黄ニンジンなどを薄切りにし、段重ねにしてオーブンで焼いた、手の込んだ一品だ。デザートは前菜と同様、一口大のものを九種類。

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