南部に着目して読むアメリカ政治地図の変動

執筆者:会田弘継2009年1月号

長い目で見るとき、アメリカの政治地図は、ダイナミックな塗り替えが進んでいる。その地殻変動の核心とは――。 今回のアメリカ大統領選では、いったい何が起きたのか――。一月半を経たいま、あらためて考えてみよう。 アメリカ合衆国史上初めて黒人大統領が生まれたという歴史的な出来事の大きな背景には、何をおいてもサブプライム住宅ローン問題に端を発する未曾有の経済危機があった。その原因となった政治を変えたいと願う米国民の強い「変革」への意志があったことに、疑う余地はない。 不況の中で「変革」への風が吹いた――という、きわめて一般的な現象が起きたのである。つまり、オバマ次期政権がこの未曾有の経済危機に効果的な手をうてなければ、「変革」の風は逆方向に吹き出すこともありうる。それが、いまアメリカが置かれている状況だ。 ただ、一時的な強い「風」の現象は別として、この国の政治地図の深いところで地殻変動が起きているのではないか。そう思わせるいくつかの事象に気付かされる。 たとえば、現職上院議員から大統領になるのは一九六〇年当選のケネディ以来というのは、しばしば指摘される。だが、南部出身でない民主党大統領が選ばれるのもケネディ以来ということは、それほど言及されていない。二大政党の正副大統領候補に南部出身者(南部=ペンシルベニア州とメリーランド州の境界線であるメイソン・ディクソン線以南を基準)がいなかったのは、第二次大戦後初めてだ。「南部の重要性」に変化が起きたことを示唆している。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。