もう一度「社会保障個人勘定」に注目せよ

執筆者:高橋洋一2009年1月号

厚労省に任せていては、年金記録問題も、社会保障の不安そのものも解決しない。発想を変えれば、いい方法がある――。  年金記録問題の泥沼は続いている。消えた年金、消された年金、すぐ返らない年金。年金記録問題の完全解決にはこれから十年間くらいかかるだろう。  実は、社会保険庁の年金記録が杜撰であるのは政府内でかなり早くから知られていた。そこで、年金不信の払拭という大義名分で、経済財政諮問会議でも「社会保障個人勘定」の創設が議論されていた。年金・医療・介護・生活扶助の社会保障を個人単位の口座で総合的・一元的に管理した上、税金の支払いも統合できるため、トータルの給付と負担が明瞭になるのが社会保障個人勘定というシステムのアイディアだ。老後の不安をなくすことにつながる。  二〇〇一年、最初の骨太方針では、「ITの活用により、社会保障番号制導入とあわせ、個人レベルで社会保障の給付と負担が分かるように情報提供を行う仕組みとして『社会保障個人会計(仮称)』の構築に向けて検討を進める」と書かれている。当時の報道を見ると、個人単位で給付と負担の関係を明確化するために、社会保障個人勘定が創設されるとされているが、当時の坂口力厚生労働相は「損得勘定を助長する」と反論していた。年金記録問題は、それ以前にも政府内で指摘されながらも問題として顕在化していなかったので、当時もあえて寝た子を起こさないということで厚労省が拒否し、社会保障個人勘定は日の目を見なかった。

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