中国・上海の目抜き通り「淮海中路」の交差点で信号待ちをしていると、片言の日本語で「ヴィトン、あるよ」と声をかけられた。日本人観光客なら、一度は偽ブランド品のセールスに誘われた経験があるはずだ。「買わない」といっても、なかなか諦めない。いつにない執拗な売り込みに“違和感”を抱く。 理由を知ろうと誘いに乗る。ビルとビルの谷間にある細い路地を入り、木製の階段を上ると、粗末なドアが開いた。通された小部屋には、偽ヴィトンや偽グッチなどの大小さまざまなバッグが陳列してある。流暢な日本語を操る店長らしき人物が登場し、「ヴィトンのバッグ、どんなタイプが欲しいのか」と聞いてくる。「普通のお客さんだと、このバッグは二千五百元(約三万四千円)。しかし、お友達の値段だと二百五十元。お客さんは、お友達値段でイイ」と詰め寄る。値段は一気に十分の一に。値札はなく、言い値に従うしかない。日本で本物を購入すれば二十万円前後はするかというバッグの「コピー」を目当てに、普段なら観光客が引きも切らず詰めかけるという。 しかし、あのリーマン・ショック以来、外国からの観光客やビジネス客がここ上海でも急速に減少している。いつもの上海とどこかが違うと思ったのはこれだ。成田空港からの日系航空会社のフライトも往復ガラ空きで、空気を運んでいるといってもよかった。浦東新区に聳え立つ百一階建て超高層ビル「上海環球金融中心」は、世界金融危機とオープニングが重なり、期待していた欧米系の有力テナントが入らず、苦戦が続くと聞く。このビルは、日本の森ビルが手がけた大型複合施設で、上海をロンドンやニューヨークと並ぶ国際金融センターにするとの構想の下、建設された。上層階にあるパークハイアットホテルは富裕層に照準を定めたが、夜になっても客室の明かりはまばらで、金融危機の影響を見てとることができる。

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