危機が思い出させてくれたもの

執筆者:2009年2月号

 百年に一度の危機だ、いやそれ以上かもしれない、と大騒ぎである。百年というなら戦争で負けたときのほうがよほどの危機だったと思うが、少しばかり貧乏になるからといって、大騒ぎしてどうなるのか。頭を冷やして考えてみれば、悪いことばかりではない。うかつにも忘れかけていたことを、しかも大事なことを、この危機騒動は思い出させてくれた。 まずは国家とか企業とか、そういうものを頼りにしてはならないということを学ばなければならない。自分が生きるためには自分以外のものをとことん信用してはならないということである。まして「これは政治の無策だ」などと当たり前のことを叫んでみても得することは何もない。日本が好きだということと日本という国家を信用するということは、まったくの別問題である。「非正規雇用」。こんないやな言葉を政府は平気で使う。「正規」ではない、という差別的な表現で、この国には数百万人の人たちが報われない待遇で働いていた。そして「危機」での突然の首切り。職も住も奪われ、寒空に野宿する大量の元「非正規労働者」。こんなニュースが毎日のように流れる。 いわゆる「派遣」という名の非正規労働者は同じ職場で同じ仕事をしても、待遇面で「正規」労働者とはまったく異なる。「同一労働、同一賃金」という言葉が虚しく聞こえてくる。だれもが指摘するように、労働者派遣法が改正され製造業にも適用されるようになったことが問題を拡大した。いわゆる「規制緩和」だが、あくまでも企業にとってのメリットしかなかったのである。

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