アメリカを震源地にした金融危機。ウォール街救済に向けて七千億ドルもの公的資金が投じられることになり、「大恐慌以来の危機」と言われるようになった。デリバティブ(金融派生商品)の膨張をはじめアメリカ流の市場万能主義が行き詰まった結果である。 アメリカはどこで道を誤ったのか? そもそも市場万能主義はどこで生まれたのか? 『ランド 世界を支配した研究所』は、このような疑問に対する一つの答えを示している。 減税や民営化によって政府の役割を最小限にし、すべてを市場に委ねようとする市場万能主義。一九八〇年代に米レーガン政権と英サッチャー政権が掲げた「小さな政府」路線として注目を集め、一九九一年のソ連崩壊をきっかけに世界へ伝播した。日本では小泉政権の郵政民営化として結実した。 本書を読めば、「小さな政府」という考え方は、元をたどれば一九五〇年にランド研究所で生まれた「合理的選択理論」であることが分かる。これは、のちに史上最年少でノーベル経済学賞を受賞するケネス・アローが打ち立てた理論であり、「人間は自己利益の極大化を求めて行動する」という仮定を置いた点に特徴がある。 ランドが大きな痕跡を残した分野は経済にとどまらない。第二次世界大戦後、陰でアメリカ政府を操り、経済のほか軍事、外交、社会政策の根幹にまで影響を与えてきたのである。

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