鉄鋼業界が苦境に立たされている。その象徴が高炉の休止だ。最大二千度の高温で鉄鉱石を溶かし鋼材の元になる銑鉄を生産する高炉は製鉄業のシンボルだが、業界最大手の新日本製鉄は二基、第二位のJFEスチールも一基の休止を決めた。 背景にあるのは自動車産業の減産ラッシュ。鉄鋼需要の三割以上を占める自動車の今後の需要を見通せないことが、鉄鋼メーカーの経営を揺さぶる。大手五社の今年一月―三月期の経常損益予想は、初めてとなる「全社赤字転落」の見通しだ。「鉄冷え」は各社のトップ人事にも影響を与えた。なかでも注目されたのは、數土文夫JFEホールディングス(持ち株会社)社長の続投表明である。數土氏は社長在任四年となる今年六月に退任すると見られていたが、「こんなときに辞めるわけにはいかないと、業績が回復するまで続投することを決めた」(関係者)。 數土氏の続投は後継レースに影響を及ぼす。これまでは、業界団体の日本鉄鋼連盟の会長を新日鉄以外で初めて務めた馬田一JFEスチール(事業会社)社長が「本命」で、経営企画や財務など重要部門を歴任し、昨年六月、持ち株会社の代表取締役となった林田英治専務執行役員が「対抗」だとみられてきた。數土氏の続投表明とともに林田氏のJFEスチール副社長への転出が発表されたことから、馬田氏がトップの座を引き寄せたかに見える。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。