「核の闇市場」のネットワークで世界に核技術を拡散したパキスタンの「核兵器の父」A. Q. カーン博士(七二)が、このほどイスラマバード高裁の決定で自宅軟禁を解かれた。 実はこの事件をめぐっては、昨年末にも、核の闇市場に関する情報を米中央情報局(CIA)に通報したスイス人技術者、ウルス・ティナー容疑者(四三)が処分保留のままスイス捜査当局から釈放されている。 カーン博士が突然パキスタン国営テレビで「外国への核技術拡散」を告白して以来、ちょうど五年。イランや北朝鮮などにまでウラン濃縮技術を供給したこの事件も幕引きか、と思わせる動きが続いているのだ。 だが、この新事態の裏に、意外な事実が隠されている。 ティナー容疑者は弟、父とともに、マレーシア企業「スコミ・プレシジョン・エンジニアリング」(SCOPE社)で、ウラン濃縮装置製造に関する技術顧問をしていたと言われる。SCOPE社は、カーン博士のネットワークに参画したドバイ、シンガポール、トルコ、南アフリカ共和国、スイス、韓国の企業とともに、ウラン濃縮装置の部品を製造していた。 ネットワークの存在が白日の下にさらされたのは、二〇〇三年十月のこと。ドイツ企業所有の貨物船「BBCチャイナ号」をドイツとイタリア当局が海上で臨検、イタリアのタラント港で検査したところ、六個のコンテナからSCOPE社のマークが付いた木箱入りの遠心分離機部品が見つかった。リビア向けのウラン濃縮用遠心分離機部品を載せていたのだ。

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