河南省を中心に「五十年に一度」と言われる旱魃に見舞われ、小麦の収穫に大きなダメージを受けた中国で、海外での農地経営に対する関心が強まっている。 もともと中国は、七億―八億人の農業人口を抱え、日本をはじめ海外に多くの農産品を輸出する農業大国だ。だが、所得の伸びに合わせて国民の食生活が急速に豊かになり、穀物や肉類の需要も急増していることに加え、昨今の乱開発による農地の減少で、食料の需給バランスは崩れつつある。一昨年暮れから昨年夏まで続いたインフレの主役は食料品だった。中国政府は疫病による豚の減産や国際市場での穀物価格の高騰が原因と説明したが、同時に穀物の海外輸出を厳しく制限する措置も採っており、「需給がタイトなのは間違いない」(中国の米穀卸商)と言われている。 このため、数年前から中国企業が東南アジアのラオスやアフリカのモザンビークなどの途上国で農場を取得し、実験的な栽培を始めている。ただ、巨大な人口を抱える中国による農地の取得には海外からの反発も大きい。二〇〇七年に政府主導で合意した中国企業が五十億ドルでフィリピンの農地を二十五年間賃借する契約は、フィリピン国内で「自国の食料確保を優先すべきだ」という声が強まったことから、昨年春にキャンセルされた。また、昨年五月には英フィナンシャル・タイムズ紙が「中国政府は、中国企業によるアフリカや南米の農地購入を支援する政策を検討」と報道した。記事の中では、世界的な食料価格上昇や環境破壊などの懸念が指摘された。このため、中国の国家糧食局などは、食料自給率九五%以上を維持する長期計画を発表すると同時に、「海外の農地取得は考えていない」と繰り返し述べるなど、海外からの懸念の打ち消しに躍起となった。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。