面白うてやがて悲しき上海「春節」の花火

執筆者:竹田いさみ2009年3月号

 中国の大晦日は賑やかだとは聞いていたが、これほどとは思っていなかった。上海市内で打ち上げられた数万発の花火の連続音と、道路を占拠した数百万発の爆竹が躍る音は、まさに「驚天動地」であった。日本や欧米と異なり、中華圏は旧暦を採用しているため、新年を旧正月で祝う。二〇〇九年は一月二十五日が旧暦の大晦日で、二十六日が元旦(春節)にあたる。 目抜き通りの延安路を遠くに見下ろせるホテルに陣取って、大晦日の夜景を堪能した。数日前から景気づけの花火が散発的に打ち上げられていたが、ほんの序曲に過ぎない。大晦日には夕方から花火のショーが徐々にはじまり、午後十一時からの一時間にクライマックスを迎える。夜空は硝煙で曇り、破裂音で会話もできないほどだ。この時期になると花火・爆竹の特需を当て込んで、市内各地に臨時の花火屋がオープンする。爆竹は一千発単位で売られており、値段は四十五元(約六百円)。花火や爆竹で死傷者が続出するため、楽しめる場所が限定されてきたとはいえ、当局もこの大晦日の狂騒には目をつぶる。 日本風に表現すれば初詣客でごった返す龍華古寺に足を運んでみた。初詣といっても、このお寺では大晦日のお参りが最も重要と聞く。例年、大晦日に三百元(約四千円、普段の拝観料は十元)の高い拝観料を払ってお参りする人波が続いていたが、経済危機で参拝者は激減。かわりに、拝観料を払えない、もしくは払いたくない参拝者が古寺の前を走る道路に佇み、ご本尊さまの方向を向いて必死に祈る姿が印象的であった。三国時代の呉に創建され、宋代の禅宗の様式をいまに残す古刹として知られるが、建物や仏像はすべて新しく、古いものは何一つない。文化大革命の時代に仏像も例外なく破壊されてしまったためだ。古来、権力が交代するたびにこうした破壊が行なわれ、都市で数百年の歴史を感じさせる構造物を見かけることは少ない。中国悠久の歴史とは、まさに破壊の歴史にほかならない。

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