じわりと広がる保護主義の実態に目を凝らせ

執筆者:加瀬友一2009年4月号

「バイアメリカン」だけではない。守られない貿易協定に、企業支援という名の保護主義。放置すれば、世界はいずれ悲惨な事態に――。「世界中が押し黙ってしまった。いま大きな声で堂々と自由貿易を主張する人間は、世界で私一人だけになってしまったようだ」 二月二十四日、ジュネーブから急遽来日したWTO(世界貿易機関)のパスカル・ラミー事務局長は、そう言って苦笑いした。都内のホテルの一室。久しぶりに会った日本の友人を前に“自由貿易の番人”は、珍しく本音を口にした。「昨年秋のリーマン・ショック以来、通商の分野はとても静かになっている。怖くはありませんか?」 たしかにそうかもしれない。貿易障壁と政府補助金の削減を目指したWTOのドーハ・ラウンド(新多角的貿易交渉)は、昨年十二月に再び決裂。金融危機で世界がバラバラになる寸前だというのに、ラウンドを合意させることで、第二次大戦後に築き上げてきた自由貿易体制を維持し、世界各国をつなぎとめようとする力学は働かなかった。 日米欧の政権は、金融危機と景気後退から自分の身を守るので精一杯である。途上国には自由貿易を推し進めようと自ら動く気配はない。保護主義台頭の証拠ともいえる事例は、ラウンドが決裂した直後から、恐ろしい勢いで積み上がっている。

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