「経済の血栓」と化した銀行の本分放棄

執筆者:鷲尾香一2009年4月号

「自動車メーカーから数百億円の融資の要請があったが断った」「中堅の不動産デベロッパーから新たに十億円の融資を回収した」 最近、メガバンクの融資担当者から、このような話を頻繁に聞く。米国に端を発した金融危機は資本市場を直撃し、それまで社債やCP(コマーシャルペーパー=短期資金調達のための無担保の約束手形)によって資金を調達していた企業は苦境に陥り、その結果、以前に増して銀行からの融資に頼らざるを得なくなった。しかし、銀行はひたすら不良債権の増加を恐れ、大企業にすら貸し渋っているのが実態だ。 筆者の手元には、あるメガバンクが作成した「実行中の融資を見直す際の基準」という資料がある。それによると、不動産業界への融資を見直す基準は、規模が五億円以上または五百万ドル以上の建設中の工事で(1)計画に対して遅延・頓挫・中断している場合、(2)計画に比べてコストが増加もしくは増加が見込まれる場合、だ。さらに、LTV(ローン・ツゥ・バリュー)という銀行融資に対する不動産価値を算出することにより、見直しは自動的に細分化される。たとえば銀行融資額が十億円で不動産の価値が二十億円の場合、LTVは〇・五すなわち五〇%だ。この数値が九〇%以内なら正常先、九〇%超で要注意先、一〇〇%超で工事が進捗していれば破綻懸念先、一〇〇%超で工事が頓挫していれば実質破綻先といった具合だ。要するに、この資料は、貸し剥がしのマニュアルなのである。

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