一月三十日の朝、都内在住の男性は、新聞に目を通そうとして一枚の折込チラシに目を留めた。ホテルオークラグループからの「お知らせ」。東京・虎ノ門にある旗艦ホテルでの催しを案内し、海外の提携ホテルを推奨している。なかでも男性の目を引いたのは、インド最大の都市ムンバイにある提携ホテル「タージマハールパレス&タワー」が営業を再開したとの告知だった。 ドームが載ったような赤い屋根、灰色がかった石積みの壁。チラシには見覚えのある旧館(パレス棟)が大きく写る。通称「ザ・タージ」。創業百年を超え、英国のエリザベス女王など賓客の定宿にもなっているこのホテルは、インドの繁栄の中心であるムンバイのランドマーク。だがそれ以上に、昨年十一月にテロの標的になったことが記憶に新しい。テロリストが立てこもり、旧館の最上階とドームは大破した。 チラシの写真をみて「もう復旧したのか」と男性は驚いた。だが実は、営業を再開したのは由緒ある旧館ではなく、その脇に建つ「タワー館」。その中にVIPご用達だった旧館の特別室などを再現し、以前の写真を使って“再オープン”を謳ったのだ。タージグループによれば、「旧館は五月から一部で営業を再開する予定ですが、いまも復旧工事の最中で、完了の時期はわかりません」。

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