イタリアの男たちが危ない

執筆者:大野ゆり子2009年4月号

 男性が女性に声をかける、いわゆる「ナンパ」というテクニックを国際比較するとしたら、恐らくイタリア人男性の右に出るものはいないだろう。以下は私が目撃した例である。 夕暮れ時のフィレンツェで、女性が一人でアルノ川沿いを歩いていた。時刻は午後六時ごろ。夕闇が少しずつあたりを覆い、沈みかける太陽が水面に映って、きらきらと黄金色に輝いている。そこに偶然通りすがった(ように見える)男が、「美しい夕焼けだよね」と女に話しかけた。ここで「いいえ」という女はまずいない。相手の意図がわからないから、とりあえず「そうね」とか、「ええ、ほんと」とかいう相槌になる。そうすると、「今、旅行中?」とか、「ここに住んでるの?」とか、会話の輪は回転を始める。 ある時はミラノのデパートの旅行用品売り場。スーツケースを探している女性と、偶然(のように)同じスーツケースを手に取ってしまった男が、「失礼」と爽やかな笑顔を見せた後、「あなたも旅行準備?」と話しかけていた。 これも、「そうなの」とか、「夏のバカンス用の下見よ」とか、何か先に話が進むだろう。 日本のナンパの常套句(だった?)、「お茶でも飲みませんか?」などというフレーズで、女性が「はい」と答える確率は、限りなくゼロに近い。イエスかノーか言いにくい状況を作り、たまたま偶然の雑談なのかしら、と思わせて警戒心を解き、会話をはずませて気が合うかどうか様子を見る。そのあたりの呼吸が、イタリア人男性は天才的に上手い。

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