イラン大統領選「ムサビ出馬」の大きな波紋

執筆者:久保健一2009年5月号

ムサビ元首相の登場で、六月に行なわれる大統領選の行方は混沌。もし「強力な中道派」が生まれれば、国際情勢にも大きな影響が――。[テヘラン発]「イランで、三日後に何が起きているかは、誰にも見通せない」。テヘランに赴任して半年余りの筆者に、親しいイラン人ベテランジャーナリストは、そんな身も蓋もない忠告をよくしてくれる。確かに、ちょうど三十年前の一九七九年に起きたイスラム革命以来、イラン情勢はサプライズの連続だ。過去数回の大統領選挙の結果を見ても、一九九七年の改革派モハンマド・ハタミ師(六五)、二〇〇五年の保守強硬派マフムード・アフマディネジャード氏(五二)の当選と、国内外の多くのイラン・ウォッチャーの予想を見事に覆してきた。 六月十二日に投票が迫っている次回大統領選も、情勢は混沌としている。春分の日を新年とする独自の太陽暦を採用するイランでは年の瀬の三月中旬、前哨戦は、過去の例に漏れず、予測困難なめまぐるしい動きを見せた。イラン改革派のシンボル的存在であるハタミ前大統領が出馬辞退し、同じ改革派のミルホセイン・ムサビ元首相(六七)が出馬を表明した。この一連のドタバタ劇の結果、再選出馬が確実な保守強硬派アフマディネジャード大統領に対し、ムサビ氏と、もう一人の改革派メフディ・カルビ元国会議長(七一)が勝負を挑むという大まかな選挙構図が、ようやく固まりつつある。

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