新型インフルエンザとの闘いはこれからだ

執筆者:田代眞人2009年6月号

たとえ現時点では被害が予想より小さくとも決して楽観はできない。今回の教訓を踏まえて「真の脅威」に対処すべきだ。「果たして“滑り込みセーフ”にできるのだろうか」 豚の感染症に由来する新型インフルエンザ(H1N1型)の発生が宣言されてから、その思いが脳裏を去らない。政府の対策会議やWHO(世界保健機関)の電話会議を繰り返して対策を練りながら、湧き起こる焦燥感と闘う日々だ。 私はこの四月から、国立感染症研究所(感染研)が新設したインフルエンザウイルス研究センターでセンター長を務めている。名称の通り、インフルエンザ対策に特化した組織で、日本側の窓口としてWHOと連携しながら最新の情報を収集し、ワクチンの開発・製造・品質管理を担う。 四月二十六日未明の第一回WHO緊急電話会議のあと、私はただちにスイス・ジュネーブへ向かった。WHO本部での緊急委員会などに出席するためだ。その翌日、WHOは新型インフルエンザの発生を宣言。以来、感染者は、五月十日までの二週間で四千人を突破した。 十日時点で、死者は四十五名。死者はインフルエンザが重症化しやすい慢性疾患をもつ人が主であり、その他多くの感染者は普通のインフルエンザと同様の症状だ。今回のH1N1型ウイルスの感染は、呼吸器にとどまっている。このようなインフルエンザウイルスは一般的に「弱毒型」とされる。

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