選挙向け「一兆円農業補正予算」の偽装を暴く

執筆者:一ノ口晴人2009年7月号

もっともらしい事業の名前にだまされてはいけない。筋を曲げ、“禁じ手”まで使って積み上げた一兆円。亡国の農政、ここに極まれり。 記者の世界に「壁耳」という言葉がある。立ち入り禁止の会議が行なわれている部屋の扉に耳を近づけ、漏れてくるやりとりに耳をそばだてることだ。政治取材の現場でお目にかかることが多い。 言い方を換えれば「盗み聞き」。だが、政治家の中には、えてして「俺はこれだけ頑張っている」と地元の選挙民にアピールするために、大きな地声をマイクで増幅させ、記者に聞かせようとする者もいる。 四月八日、自民党本部では二〇〇九年度の補正予算額について詰める農林関係合同会議が開かれていた。「(一兆円の)大台に乗せることが大事なんだ!」。部屋の中から「ブルドーザー」の異名もある西川公也・農業基本政策委員長の声が聞こえる。外の廊下では、初老の男性が立ったまま壁耳をしていた。 真剣な顔で耳を傾けるこの男性は記者ではない。農協組織の総合指導機関、言い換えれば「政治部門」を担当する全国農業協同組合中央会(JA全中)の冨士重夫常務理事。合同会議が、農林水産分野で過去最大となる一兆円超の補正予算案を決めたとき、冨士氏は内心、「民主党のおかげ」と思ったことだろう。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。