クライスラーを託された男マルキオンネ

執筆者:シルヴィオ・ピエールサンティ2009年7月号

壁には一言「コンペティション(競争)」。フィアットを蘇らせた企業再生のプロは、今度はどんな手腕を見せるのか。[ローマ発]セルジオ・マルキオンネが二〇〇三年五月に取締役に就任したとき、イタリアの自動車最大手フィアットは経営危機に瀕していた。翌年六月、過去三年間で五人目のCEO(最高経営責任者)となった彼が自らに課したのは、傘下にフェラーリやマセラティ、アルファロメオにランチアという高級車ブランドを持つ老舗メーカーに真の国際競争力を持たせることだった。 それからフィアットが黒字経営に転じるまで一年とかからなかった。〇八年の売り上げは七百八十億ドル(約七兆八千億円)、利益も二十二億ドル(約二千二百億円)。五・七%という営業利益率は世界の業界大手の中でもトップクラスだ。マルキオンネはスターになった。そして今、彼はさらに大きな注目を集めている。米クライスラーとフィアットの全面提携により、経営破綻したクライスラー再生の鍵を握ったためだ。 イタリア生まれのカナダ育ち、伊英仏独西の五カ国語を操り、弁護士と会計士の資格を持つ五十七歳。こうした経歴の持ち主にオバマ米大統領が白羽の矢を立てたのは、フィアットを立て直した手腕ゆえだ。実際、彼はフィアット主導の再建案を数カ月でまとめあげた。クライスラー株式をまず二〇%取得して経営の主導権を握るほか、公的資金の返済が完了すれば最終的にはクライスラー株の五一%をフィアットが握るという内容だが、ホワイトハウスはこれを呑んだ。

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