「経費不正請求」が招いた英国政治の激震

執筆者:マイケル・ビンヨン2009年7月号

選良たちからの「請求」の中身は、有料ポルノの視聴代から買い物のタクシー代まで。英国の政治不信は、ここに極まった。[ロンドン発]英国政界が崩壊の連鎖に陥っている。一人また一人と閣僚が辞任し、労働党は分裂状態。ゴードン・ブラウンは必死に首相の座にしがみついているものの、もう長くはもつまいというのが大方の見方だ。一九九〇年、人頭税導入が世論の反発を招いてマーガレット・サッチャー首相が退陣に追い込まれた時以来の最大の危機に、イギリスは騒然とした空気に包まれている。 百人を超す下院議員が自宅改装や高級品の購入などで途方もない額の経費を不正請求していたことはメディアの暴露で広く知られ、政界を揺るがす一大スキャンダルへと発展、閣僚六人と政務次官四人が相次いで辞任し、数十人もの議員が罷免されるという異例の事態となった。 労働党の支持率は二二%という過去最低を記録、先の地方議会選挙と欧州議会選挙でも歴史的大敗を喫した。次の総選挙でも敗れることはほぼ確実の情勢だ。なんとか空気を変えようと、ブラウンは六月五日に内閣改造を行なったが、失態を重ねただけだった。ダーリング財務相を筆頭に複数の閣僚が辞任を拒否。ブラウンは更迭したかった閣僚を放逐できず、八日の党所属議員の集会で自らの指導力の欠如を謝罪するハメになった。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。