大阪の小さな広告代理店の社長逮捕から始まった事件が底知れぬ広がりを見せつつある。障害者団体向け郵便料金割引制度の悪用事件。六月十四日には、将来の事務次官候補とも目された厚生労働省の村木厚子容疑者(雇用均等・児童家庭局長)が逮捕される事態にまで発展した。「どこまでやるつもりだ」。五月末、独立行政法人「福祉医療機構」の塩田幸雄理事が大阪地検特捜部から任意の事情聴取を受けたことを知った厚労省幹部は不安げにつぶやいた。塩田理事は厚労省の障害保健福祉部長を務めた元キャリア官僚で、村木容疑者の上司だった。厚労省では国会対応の手腕を買われて政策統括官も経験しており、「政治部長」とも呼ばれる。事情聴取では、郵便制度の悪用に関与した障害者団体の証明書発行に絡み「国会議員から電話で対応を頼まれた」と答えていた。 事件に悪用されたのは、福祉向上を目的に一九七六年から始まった「低料第三種郵便物制度」。封書の中身の半分以上が障害者団体の定期刊行物なら、通常百二十円の封書を十円以下で郵送できる。これに目を付けたのが、大阪市の広告代理店「新生企業(現・伸正)」だった。 実体のない障害者団体と手を組み「定期刊行物」を作って、広告チラシを同封する。さらに規制の網にかからない封筒の表と裏にもカラー広告を印刷。こうして、障害者団体の郵便物にはまったく見えない、企業のダイレクトメール(DM)ができあがる。新生企業はこのノウハウを印刷・通販大手「ウイルコ」に持ち込み、ウイルコは「格安でDMを送れる」とのふれこみで広告主を探した。

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