先の見えない世界を覆う「1Q89」現象

執筆者:小田博利2009年8月号

米国一極支配と市場主義の時代が終わり、まるで二十年前の世界に迷いこんだようだ。だが、そこで待ち受けている現実は、さらに複雑さを増している。 村上春樹のベストセラー『1Q84』風にいえば、「1Q89」年現象だろうか。世界が二十年単位の揺り戻しを受けているようだ。二十年前のその年、日本では参院選で社会党が躍進し、自民党は過半数割れに追い込まれた。リクルート事件、消費税導入、農産物自由化、そして宇野宗佑首相の女性問題が自民党の致命傷になった。 それから二十年が経過し、今また衆院選を機に自民党の下野と民主党政権の誕生が取りざたされる。政権を失うまいと、自民党は東国原英夫・宮崎県知事に三顧の礼を尽くす。だが、国政の運営は県の特産品を売り歩くような訳にはいかない。もの凄い勢いで変わっている世界からみれば、児戯に等しい政争に明け暮れる日本は、さしずめ宇宙の向こう側にあるパラレルワールド(平行世界)だろう。 新疆ウイグル自治区でのウイグル族の暴動に伴う死者は優に百人を超え、負傷者は千人を上回る。拘束者も千人は下らない。一九四九年に成立した中国共産党政権にとって、切りのいい建国記念の年は鬼門なのだろうか。二十年前の八九年に天安門を覆いつくした学生デモを戦車で弾圧した中国当局の姿が思い起こされる。いや二十年も遡る必要はない。正当な抗議に訴えたチベットの住民たちへの血の弾圧の帰結はどうなったのか。

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