転機を迎えたフランスの移民政策

執筆者:杉山文彦2009年8月号

「もはやこれまでのモデルは機能しない」。そう言い切ったサルコジ大統領は、差別を受ける移民を対象に優遇策を検討するが――。[パリ発]世界中から移民を受け入れてきたフランスが転機に直面している。「人は生まれながらにして自由かつ平等の権利を有する」。フランスは、一七八九年に採択された人権宣言の精神を受け継ぎ、移民にも平等に国籍を与え同化を促してきた。ところが近年、移民に対する差別が社会問題化し、伝統的な同化政策に限界が見え始めた。そこで今、差別を受ける側を対象に教育や就職で「優先枠」を設ける事実上のアファーマティブ・アクション(積極的是正措置)の導入を検討しているのだ。「われわれの統合モデルがもはや機能しないことに気がつかない人がいるだろうか。それは平等ではなく不平等を生み出している。統合の代わりに、恨みを生んでいる」 六月二十二日、パリ近郊のベルサイユ宮殿で開かれた上下両院合同会議で、サルコジ大統領はそう言い切った。国家元首による異例の発言の背景には、移民差別の根深さがある。 二十世紀半ばまで、フランスにはイタリアやポーランドから多くの移民がやってきた。同化政策が比較的うまく機能したのは、移民の主流がヨーロッパの白人・キリスト教徒だった時代までだった。

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