ギリシャのコルフ・アジア美術館から、日本美術の収蔵品がごっそり運ばれてきた。 江戸東京博物館で九月六日まで開かれている「写楽 幻の肉筆画 ギリシャに眠る日本美術~マノスコレクションより」。鈴木春信に喜多川歌麿、葛飾北斎ら江戸浮世絵のビッグネームがずらりと並び、しかもかなりの名品揃いで見応えありだ。この大半が、もともとは個人の収集品だったというから驚く。集めたのはグレゴリオス・マノスなるギリシャの外交官。外交史や美術史に広く名を留めているわけではなく、そもそも東洋へ赴いたこともない。それでも東洋美術の一大コレクションを築いたこの人物、いったい何者なのだろうか。 マノスは一八五〇年、ギリシャ人の名門軍人家系の家に生まれた。ドイツのライプチヒで法律を修め、二十代から外交官の道に入った。ベルリンなど各地に勤務した後はウィーンへ。一九〇〇年から一九一〇年まで、オーストリア・ハンガリー帝国の首都だった地でギリシャ大使を務めた。 つまりは名家出身のエリート外交官。ただし、いったん職務を離れれば、かなり偏屈で変わり者だった。結婚をせず家庭を持たなかった彼は、自分の時間と財を、惜しげもなく美術品収集につぎ込んだ。六十歳で大使を辞した後は、故郷のある地中海方面ではなくパリに居を構える。オークションが盛んで美術商も多くいるパリのほうが、コレクションを充実させるにはうってつけだったという理由からのようだ。

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