「北方領土進展なし」ロシア側の事情

執筆者:酒戸充2009年9月号

五月に来日したプーチン首相は、北方領土問題について今後の進展を示唆した。ラクイラ・サミットでの首脳会談に期待がかかったが……。[モスクワ発]七月九日、イタリアのラクイラ。主要国首脳会議(G8サミット)に合わせて麻生太郎首相とロシアのメドベージェフ大統領との会談が開催された。総選挙を控え、支持率低迷に苦しむ首相にとって北方領土問題の解決に道筋をつけられれば、大きな成果だ。プーチン首相が五月中旬に日本を訪問した際にも同首相は「あらゆる選択肢を検討する」と発言し、大統領がイタリアで領土問題を話し合う用意があることを示唆した。日本側には期待感が高まったが、結局、具体的な提案はなく、麻生首相は起死回生の得点をあげることはできなかった。 大統領は翌十日のサミット終了時の記者会見で駄目を押した。領土問題について問われると「一九五六年の日ソ共同宣言が唯一の法的根拠があるものだ。これをもとに交渉しなければならない」と発言したのだ。共同声明は歯舞、色丹の二島を日本に引き渡し、平和条約を結ぶとしている。四島を日本の固有の領土として一括返還を求める日本の立場に、ロシア側から歩み寄る考えがないことを示したのだ。プーチン―メドベージェフ体制で膠着した事態の打開を目指した日本側の期待はもろくも崩れ去り、対露交渉戦略の立て直しを迫られることになった。

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