どこへ行った民主党「農政の理念」

執筆者:一ノ口晴人2009年9月号

選挙活動で民主、自民両党とも、政策は置き去り。相次いで出版された「農政の良書」を片手に、進むべき道を整理してみよう。「組合員にはできるだけ読ませないように」。今年の早春、農協(JA)のヘッド・クオーターである全国農業協同組合中央会(全中)が、ある書籍を「禁書」に指定した。一月に出版された『農協の大罪』(宝島社新書)である。著者の山下一仁・経済産業研究所上席研究員は、二〇〇八年に農林水産省を退官したばかり。農政の裏側を知りつくしているだけに、同書で農水官僚、JA、自民党農林族のもたれあい、すなわち「農政トライアングル」の内実を鋭く批判し、とりわけその矛先は、農家に割高な肥料・農薬・資材を売り付けるなど、農業の強化につながらない組織の利益を最優先するJAに向けられた。 これに現代版「焚書」で応じた全中も大人げないが、トライアングルの三者は等しく「大罪」を背負っている。その後、農水省にはヤミ専従問題の火の手が上がり、自民党農林族は総選挙対策に没頭。トライアングルの三者は組織防衛に必死で「政策」はおいてけぼりだ。新政権発足直後に危機が? 日本農業の「危機」は急ピッチで迫ってくる。その引き金を引くのは、世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の行方だ。昨年秋の金融危機以降、米国がバイ・アメリカン条項付きの景気対策を実施するなど、各国で保護主義的な動きが出ていることに加え、オバマ政権は、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しを公約に掲げて当選した。「新たな貿易自由化どころではない。新ラウンドの早期決着は難しい」という見方は根強い。

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