旧ソ連文書が明かす「ドイツ統一を恐れた英仏」

執筆者:マイケル・ビンヨン2009年11月号

強大な統一ドイツが出現することを何としても避けるため、サッチャーとミッテランが頼ったのは、ゴルバチョフだった。[ロンドン発]ベルリンの壁が崩壊したのは一九八九年十一月。その二カ月前、当時の英首相、マーガレット・サッチャーはソ連の最高指導者、ミハイル・ゴルバチョフ共産党書記長に対し、西欧でドイツ再統一を望む者は誰ひとりいないと伝えていた。国際秩序の安定を脅かすことになるから、というのがその理由だ。モスクワで行なわれたこの会談で、サッチャーは、ドイツ再統一を阻止するために、早急に手を打ってほしいとゴルバチョフに迫ってもいた。 東ドイツの消滅を避けるために、サッチャーが重ねた懸命の努力。これが明るみに出たのは、最近、旧ソ連政府の公式記録のコピーが密かに持ち出されたからだ。これまでも一部は公開されていたが、その全貌を伝えるこの公式記録は、東欧の共産圏諸国を揺るがす民主化運動と政治的混乱を目にしたソ連政府、さらには西側諸国の狼狽ぶりをも鮮やかに描き出している。 ソ連の共産主義体制に対する強硬姿勢ゆえに「鉄の女」と呼ばれていたサッチャーだが、東欧の不安定化やワルシャワ条約機構の解体は、西側諸国が望むところではないとゴルバチョフに語っていた。西側諸国は、東欧の共産主義体制の終焉を後押しすることもないだろうし、ソ連自体の安全保障が危機に晒されるような真似は一切しないだろう、と。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。