経営危機に陥った日本方式の台湾新幹線

執筆者:八ツ井琢磨2009年11月号

 日本の新幹線システムを海外で初めて採用した台湾高速鉄道が経営危機に陥っている。二〇〇七年一月の営業開始から三年足らずで累積損失は七百億台湾ドル(約二千億円)に拡大。借入金の返済期を迎え、資金ショート寸前の事態に追い込まれた。九月末には民間企業出身の運営会社トップが辞任。当局主導で事業再建が進められることになった。 高速鉄道は二大都市である台北、高雄間の三百五十キロを約一時間半で結ぶ。民間企業が建設・運営し、投資資金の回収後に当局に引き渡すBOT方式が採用されている。事業期間は二〇三三年までの三十五年間。当局からは一切出資を受けない計画だったが、既に多額の公的資金が投入されており、今回のトップ辞任で民間主導の事業モデルは名実ともに破綻した。 経営難の背景には収益計画を狂わせたいくつもの誤算がある。まずは利用者数。当初は一日二十三万人を想定していたが、現状はその三分の一の八万人余りにとどまり、運賃収入が低迷。加えて四千億台湾ドル(約一兆一千億円)近い負債に伴う利払いや減価償却の負担がのし掛かり、損失は拡大の一途をたどっている。 〇五年十月に予定していた開業が一年以上遅れたことも痛かった。高速鉄道は当初、欧州方式を採用する予定だったが、後に日本勢が逆転受注。こうした経緯から、東海道・山陽新幹線の「のぞみ」をベースとした車両を導入する一方、列車無線などは欧州方式の設備を使う複雑なシステムとなっており、建設作業や運転士育成の遅れにつながった。

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