国民の心を動かした2つのサッカー国際試合

執筆者:西川恵2009年12月号

 十月、二つのサッカーの国際試合が注目を浴びた。一つは国と民族の誇りを確認する場となり、もう一つは長年反目してきた国同士の和解を演出した。 パレスチナ自治区のヨルダン川西岸の都市アラム。二十六日、パレスチナとヨルダンの女子チームによる親善試合がもたれた。自治区でサッカーの国際試合が行なわれたのは初めてだった。スタジアムはパレスチナ人観客一万人で埋まり、三分の二が女性。自治政府のサラム・ファイヤド首相や、国際サッカー連盟(FIFA)が派遣した幹部も観戦した。 パレスチナのチームは赤いユニフォーム、ヨルダンチームは白。大部分が半袖シャツに膝上パンツ。イスラム教の戒律を守り、スカーフを被り、パンツの下にタイツをはいた女性は数人だけ。紅白の選手がボールを追ってピッチを駆け回ると、パレスチナの国旗が打ち振られ、自治政府の故アラファト元議長の肖像が大きく揺れた。 パレスチナチームのキャプテン、ハネー・タルジェさん(二四)はベツレヘムに住む。最年少のアヤ・カティブさん(一四)はジェリコ近郊の難民キャンプからの参加。以前、エリエル監督は「女性たちの住む場所は離れていて、苦しい家計を支える仕事もある。イスラエル軍の封鎖で足止めされることもあり、全員での練習がほとんどできない」と厳しい環境を語っている。

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