中国のASEAN闊歩でまたカードを失う日本

執筆者:南部正2009年12月号

 中国の東南アジア諸国連合(ASEAN)への進出が加速している。ASEANといえば主要国では民間投資、後発のカンボジアやミャンマー、ラオスなどでは政府開発援助(ODA)で、いずれも日本が経済とインフラを支えてきた。だが、日本経済が低迷する昨今、政治面でも経済面でも影響力を拡大したい中国が豊潤な外貨を元手にうごめきだした。 カンボジアの首都プノンペンに今年三月、新しい首相府が完成した。ドッシリとしたビルの真ん中をくりぬき、そこにピラミッド状の巨大会議室を配置した建物は、約三千三百万ドル(約三十億円)の総工費全額を中国が支出した。建設機械も中国製で、工事も本国から来た作業員が実施、一国の首相府を中国が「丸抱え」で作った。こうして来た中国人のほとんどが「カンボジアに住み着いている」(地元記者)という。 プノンペン市内の目抜き通り、モニフォン通りを歩くと中国人の影響力は一目瞭然。ほとんどの店で看板に漢字の表記がある。中国料理店も多い。カンボジア財務経済省などの調べによると、人口一千五百万人の同国に移住した中国人の数はすでに五万人超。民間企業の積極投資が目立つ韓国からの長期滞在者(約五千人)の十倍である。日本企業の“金城湯池”と言える隣国タイでさえ日本人の長期滞在者は四万四千人(昨年十月時点)だから、中国の突出ぶりは分かろうというもの。

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