第五次「製造業海外流出」をどう生かすか

執筆者:新田賢吾2010年1月号

国内需要の長期的減退に温暖化対策、円高が追い打ちをかける。これからの製造業のあるべき姿とは――。 日本の製造業の海外流出が再び加速している。工業製品に対する国内の需要は二〇〇八年九月のリーマン・ショックを機に三〇%以上も急減し、「需要の瞬間蒸発」を起こしたが、その衝撃が過ぎた後も回復の兆しが見えない。その一方で、中国、インド、ブラジルなど新興国のモノの需要は、いち早く回復し、勢いよく拡大しているからだ。自動車、エレクトロニクスから鉄鋼など素材まで、日本の製造業は成長を求めて新興国、途上国への流出を進めており、日本は空洞化を防ぐための産業戦略の再構築を求められている。 戦後、製造業が日本から海外に生産拠点を移す大きな動きはうねりのように何度か起きたが、今回は第五次の波といえる。 第一次は一九六〇年代後半から七〇年代はじめにかけ、エレクトロニクス産業などを中心に東南アジア、米国などに工場進出が起きた。松下電器産業(現パナソニック)やソニーがカラーテレビ、冷蔵庫など家電製品の工場を、需要地である米国、東南アジアなどに開設した。その象徴ともいえるのが七二年八月に操業を開始したソニーの米サンディエゴのカラーテレビ組み立て工場だろう。ソニーは七四年六月に英ブリジェンドにもカラーテレビ組み立て工場を設けた。日本からの輸出ではなく、現地生産することでコスト競争力を高めるとともに、現地市場でのプレゼンスを高める狙いがあった。七〇年代初頭の円切り上げ、変動相場制への移行が日本の輸出企業の背中を押し、海外進出に向かわせた。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。