「全方位外交」を展開するトルコの思惑

執筆者:吉岡良2010年1月号

核問題を抱えるイランとの「蜜月」に注目が集まりがちだが、ターゲットはイスラム世界だけではない。本当の狙いは何なのか。[エルサレム発]「新オスマン主義」。トルコのエルドアン政権が進める最近の外交政策について、識者たちはそう評する。一二九九年から六世紀以上にわたってイスラム世界を中心に広大な版図を誇ったオスマン・トルコ帝国時代の権勢を髣髴とさせる積極的な攻勢により、再び中東地域での覇権拡大を目指しているのではないかとの見方だ。 トルコはイラン、イラク、シリアの中東三カ国に隣接するが、中でも目につくのはイランへの接近である。両国の関係は、ここ三十年間で最も良好と言える。 エルドアン首相は十月二十七日にテヘランでアフマディネジャド大統領と会談した。十一月八日、今度は同大統領がイスラム諸国会議機構(OIC)首脳会議に出席するためイスタンブールを訪問。両首脳は再び意見交換を行ない、関係緊密化を印象付けた。 一連の会談が注目されたのは、イランの核問題をめぐり、ぎりぎりの国際交渉が続いているからだ。エルドアン首相は「批判する側(欧米)が、同様の兵器を保持し続けている。傲慢な制裁を望むなら、まず自ら(の兵器を)廃棄するのが筋だ」などと指摘。西側諸国の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)に加盟しながらも欧米の制裁強化路線に同調せず、イランを擁護する姿勢を鮮明にした。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。