北朝鮮がデノミで狙った「市場勢力」の壊滅

執筆者:平井久志2010年1月号

自ら手がけた経済改革を否定してまで経済の主導権を奪回しようとした金正日。だが、事態はその思惑を超え――。 金正日総書記は十一月三十日に貨幣交換とデノミを行ない、ついに「市場勢力」との対決に出た。これは二〇〇二年七月一日の経済改革(七・一措置)の自己否定であり、一部で初期的な市場経済が芽生えていた北朝鮮経済を再び統制経済へと逆戻りさせるものだ。 まず、七・一措置について説明しておこう。 金総書記は〇一年十月に「強盛大国建設の要求に合わせ社会主義経済管理を改善強化することについて」との講話を発表した。内容は、社会主義の悪しき平等主義の否定、無償制度の大胆な整理、権限の下部・地方への委譲、物資交流市場構想、企業の独立採算制の強化、究極的な配給制の廃止――などを含む画期的なものであった。 北はこの講話をもとに七・一措置を断行。農民市場「チャンマダン」が急速に発展し、全国で少なくとも三百カ所以上の市場が運営されるようになったとみられる。当局が設置した公設市場の性格を持つ「総合市場」も生まれた。 これにより、市場での商取引を基盤とする新富裕層が生まれた。大量の餓死者まで出した一九九〇年代の「苦難の行軍」を乗り越え、〇二年以降は市場で身を粉にして働き財を成した「市場勢力」である。その増加を示す例の一つが、〇八年十二月に始まった携帯電話サービスへの加入者数だ。一般住民の加入時の経費は三百五十ドルと北の一般住民にとっては極めて高いものであったが、〇九年九月末には約七万人に達した。

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