二〇一二年のロシア大統領選挙での復帰が取りざたされるプーチン首相の「影の補佐官」として、ロシア正教の聖職者で首相の懺悔を受けるチーホン・シェフクノフ司祭の存在感が増している。 司祭は、ソ連国立映画大学シナリオ学科を卒業した変り種で現在五十一歳。首相の出身母体である旧ソ連国家保安委員会(KGB)の本部の場として知られ、現在は連邦保安局本部があるモスクワのルビャンカに教会を建てた時には、諜報機関から多額の援助を受けた。 司祭はプーチン氏の訪米などに同行したほか、ルビャンカに近いスレチンスキー修道院で、プーチン氏や側近と定期的に会合するといわれる。 司祭が〇八年に製作にかかわった「帝国の崩壊――ビザンチンの教訓」という映画には、諜報機関出身者が好む「西側の陰謀」史観が色濃くにじみ出ている。ビザンチン帝国はオスマン・トルコに滅ぼされたが、実は西側のカトリック勢力の陰謀が大きな役割を果たしたというのだ。 映画は、ソ連崩壊やウクライナの親露政権崩壊をビザンチン帝国崩壊になぞらえ、西側への警戒感を緩めないことを「教訓」として導き出す。懺悔の時にプーチン氏が司祭と交わす会話が、今後のロシアの針路に微妙に影を落とすことになるかもしれない。

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