『企業・市場・法』ロナルド・H・コース著/宮沢健一・後藤晃・藤垣芳文訳東洋経済新報社 1992年刊(原著は88年刊行)「世界的金融危機が起きた今、市場メカニズムなんて、もう信じられない」、「しかし、市場取引をなくすわけにもいかない。どうすればよいのか」。今の不安定な経済社会情勢の中で、このような疑問を抱いている人は少なくないだろう。金融危機発生以降、経済は大きな荒波にさらされており、市場や経済に関する見方も大きく揺らいでいる。 一九九一年にノーベル経済学賞を受賞したロナルド・コースの著作『企業・市場・法』は、人々が抱えているこのような疑問に対して一つの答えを示してくれる。経済学というと、「市場原理主義を広めようとする学問」のように言われることは多い。そして、今回の金融危機の発生によって、多くの人が市場メカニズムに対して不信感を抱き、その結果、経済学も、批判的に見られることがしばしばである。そういう方々は是非、本書を手にとって頂きたい。経済学に対する見方が大きく変わるはずである。 市場メカニズム、より正確には、市場価格を通じた資源配分メカニズムは、経済活動の基礎となるものだ。自由な市場取引により社会的に望ましい資源配分が達成される。しかし、市場メカニズムには限界があることも事実である。金融危機も市場が機能不全に陥ったために発生した。コースはその限界を積極的に認めた上で、市場がうまく機能するための法律や司法的ルールの整備を重視する。そして、市場メカニズムを支え、補完する民間の非市場型メカニズムに光をあてる。特に、企業組織がその役割を果たしていることを明確に主張している。ただし、コースは市場メカニズムを否定しているわけではない。むしろその重要性を強く認識し、政府の安易な介入に警鐘を鳴らしている。

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