「再選」を睨むオバマ氏が選んだ「主戦場」

執筆者:田中直毅2010年3月号

「チェンジ(改革)」を掲げてオバマ大統領が就任してわずか一年で、米国内の分断状況が明らかになってしまった。争点は、大統領が掲げた三つの改革。医療保険制度改革、大手金融機関に対する再規制措置、そして地球温暖化防止のための排出量取引の導入である。
 この三つについては、二つの共通の特徴がある。ひとつは三つの改革に反対する陣営はほぼ重複しており、三つの改革案への反対を通じて、米国内における「抵抗勢力」の存在が浮き彫りとなってしまうことだ。いわばリトマス試験紙を別々の溶液に三度入れたところ、連邦政府の肥大化と強力介入への反対が、酸性ともいうべき属性を映し出すことになったのだ。
 第二の特徴は、三つの改革が数珠繋ぎとなっているため、「最も脆弱な玉」の狙撃に成功すれば、「他の玉」も結果として落下するという直列構造となっていることだ。このため、反対陣営は首都ワシントンを中心にして、圧力団体間での共闘体制の構築の模索を試みることになろう。
 こうした数珠繋ぎの構造をよく理解していたのは、オバマ大統領自身といえるかもしれない。一月十九日のマサチューセッツ州での上院議員の補欠選挙の争点は、最終段階では医療保険制度となった。共和党候補は本来自らに有利なはずの雇用確保などの争点を外し、公的医療保険制度を導入すれば政府の肥大化に直結するという点に、民主党との対決点を絞り込んだ。そして、民主党勢力が伝統的に強かったはずの同州で、選挙民は政府の肥大化にNOをつきつけるという結果になった。
 翌二十日に大統領は熟慮のうえ攻撃に転じることを決意する。争点の直列構造を前提として、あえて大手金融機関に対する再規制措置の新規導入を決めたのだ。そして二十一日には、わざわざ再規制の主張者の名前を付して、高額報酬で批判の高まる大手金融業界のビジネス・モデルを根底から覆すであろう規制案「ボルカー・ルール」を発表した。まだ、マサチューセッツの結果が判明してから四十時間も経過していなかった。米国有権者に向けて、どちらの陣営に与するのかを問うがごとくであった。しかし、これを通じてオバマ大統領は、自らの歴史的位置に変化が生ずるのを意識したかどうか。

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