寒風ふきすさぶホテル業界の「遠い春」

執筆者:清水常貴2010年3月号

「三重苦です」と嘆くのは、ある高級ホテルの支配人だ。二〇〇三年から〇七年にかけて急増した超高級ホテルが、一昨年のリーマンショックに続いて新型インフルエンザの流行、ドル安・円高に見舞われ、苦境に陥っている。かつて都内で二百室もなかった「スタンダードタイプの室料が五万円以上」の超高級ホテルが、一千室に増えたところに三重苦が襲い、訪日ビジネスマンが急減したうえ、せっかく来日しても経費削減に走っているのである。 前出のホテル支配人によれば、近くの超高級ホテルの外国人支配人が宿泊客数の落ち込みに癇癪を起こして相談に来たこともあるという。無理もない。昨今、ネット予約では室料を半値に下げて売り出している。オフィスビルの上層階に位置する“下駄履きホテル”が多い中で久しぶりに全館がホテルだったことで期待を集めたザ・ぺニンシュラ東京(日比谷)では、「二〇〇九年記念」として一泊二千九円の部屋を売り出し、あるいは本拠のペニンシュラ香港の開業記念の名目で安価な宿泊プランを提供するなど、あの手この手の誘致策を凝らしている。 それでも客は「超高級」を避け、「高級」へ向かう。東京駅近くにある、超高級ホテルより少しランクが下のホテルの支配人が言う。「当ホテルは一泊一万七千円ほどですが、以前、ヨーロッパの高級自動車会社の日本法人に売り込みに行ったところ、パンフレットを見て『当社のトップはこんな狭い部屋には泊まらない』と言われました。ところが、リーマンショック後、本社のトップの方がご宿泊になり、『部屋の広さは申し分ない。料金もリーズナブルだ』と仰っていただきました」。

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