権力の香りが立ちのぼる紅茶「ブランド化」小史

執筆者:竹田いさみ2010年3月号

「世界的に有名な紅茶の老舗」を捜し求めてロンドン市内を歩き回り、疲れ果て、ほぼ諦めかけた頃だった。ついに「トワイニング」の本店を見つけることができた。バス通りに面しながら店構えがあまりにこぢんまりしていたため、あやうく見過ごしてしまうところだった。 ロンドン中心部のトラファルガー・スクエアから金融街シティー方面にストランド通りをしばらく歩いていくと、ビルの谷間に「トワイニング」はひっそりと佇む。創業は一七〇六年。同じロンドンでも、繁華街ピカデリー・サーカスにある高級食材店「フォートナム・アンド・メイソン(F&M)」(創業一七〇七年)の賑わいとは対照的に、法律関係の事務所が軒を連ねる地味な町並みの一角にある。付近に観光客の姿はない。目に付く大きな看板もなく、正面玄関の上にはお馴染みのトレードマーク――二人の中国人が黄金のライオンを挟むように鎮座している――をかたどった石像があるだけだ。この石像は中国から「ティー(茶)」を直輸入しているという証しである。 日本で「ティー」と言えば「紅茶」を意味し、「アフタヌーン・ティー」は「午後の紅茶」と訳されてきた。しかし「ティー」には緑茶が含まれていることを忘れてはならない。茶葉は発酵などの製法で紅茶になるか緑茶になるかが決まるのだ。

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