中南海の波高く「ポスト胡錦濤」に異変あり

執筆者:藤田洋毅2010年4月号

「響きのいいスローガンばかり。何か矛盾を解決したか、改善したか? 何もできなかったではないか!」
 建国元勲の近親者で、すでに第二線に退いた老幹部が問いかけた。相手は、胡錦濤総書記・国家主席を支える最大の政治基盤、「団派(共産主義青年団出身者グループ)」と目される党中央の有力中堅幹部。たじろぎつつも「国家改造の決意が揺らいだことはありません」と応じた。議論が熱を帯びるのも当然。二〇一二年秋に予定されるポスト胡を決める第十八回中国共産党大会へ向け、権力中枢で火花が散っているのだ。
 隠然たる影響力を保つ江沢民前総書記の率いる「上海閥」は、〇七年秋の十七回党大会を機に、高官子弟グループである「太子党」の代表として習近平現国家副主席(五六)を担ぎ、ポスト胡の最有力候補となした。一時、独自の基盤づくりに走った習と、それに不満を抱いた江との間に隙間風が吹いたこともあったが、共倒れを恐れた習は素早く軌道修正、上海閥・太子党連合を立て直し、団派とつばぜり合いを演じている。
 自身も「太子党の一員」だと認める老幹部は、まくし立てた。「庶民は強制撤去で家を追われるか、不動産高騰でもはや手が届かない。住む家もなくて、何が和諧(調和)社会か! 腐敗は拡大深刻化するばかりで、人民は怒りを溜め、それを爆発させたら群体性(集団騒乱)事件と呼ばれて弾圧される」と胡を痛罵、返す刀で農民や障害者など弱者への親近感を隠さない温家宝首相も俎上に載せた。「パフォーマンスばかりの首相に舵取りを任せてよいのか。四川大地震の際に軍を批判したため、その後は軍営に一歩も足を踏み込めない。こんな首相、過去にはいなかった」。
 老幹部の憤懣は収まらない。
 胡が党中央軍事委員会主席に就き名実ともにトップとなった〇四年秋から「論議が本格化した地方制度の改革は、どうなった」。複数の省・自治区・直轄市を統合する大行政区を設け、いよいよ実質的な連邦制に踏み込むと一時は内部で話題になったものだ。中堅幹部は言う。「地方制度改革は議論しています。ただ、大行政区制とは逆の方向に進むでしょう」。全部で三十一ある省・自治区・直轄市という一級行政区を「五十前後に増やす案が煮詰まっている」と。
 たとえば河北省。首都の北京と直轄市の天津を包むように東西南北に広がるが、省内の各地域は川や山脈に遮られ、人々の気質や風土も異なる。そもそも一体性のない地域を束ねて省にした典型だ。その北東部の都市の秦皇島や唐山などを遼寧省に編入するか、または渤海経済圏の振興を狙い特別区を新設する案が出ている。ほかの地区も天津や河南省へ編入し、河北省は解体するというわけだ。四川盆地を基盤とする四川省以外、どの省も「地理的な一体性を重視すれば、現在の体制は合理性に乏しい」とし、経済や社会の実情に則して区割りし直すという。

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